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「温泉に行こう」
それは、ソラが漏らした一言。 「は? 何で??」 シェリルは何とも間の抜けた声を出したのであった。 ◆注◆ この回の話は小説形式で行わせていただきます☆ ぶっ壊れたキャラって楽しいネ。 ◆第7話 1 『罠』◆ 温泉? 何故? は? 何考えてるの? そう疑問に思うのも当然であろう。 敵の補給路を断ったとはいえ、戦況が変わってきたとはいえ未だ戦いは続いているのだ。 シェリルはこんな中でそんな事をいう彼が熱でも出したのかと思った。 蟲に成るのを阻止する方法を探すために白銀の暁についたのはいいが、その後一向に進展はない。 フォルミカのいるフェアマインにいたらもっと情報が集まったかもしれないが、こんな最前線にそんな情報がわざわざ来るわけはなった。 その為に、首都と前線とを行き交う伝令に研究の様子を知らせるように頼んだシェリルはその報告が今か今かと落ち着かないまま数日を過ごしていた。 そんな中のこの一言である。 一瞬目つきが鋭くなってしまったとしても、それは仕方ないと思ってもらいたい。 「あ、いや、村の人に聞いたんだけど此処から1日ほど行ったところに温泉街があるらしい。嫌ならいいんだけどよければみんなで行かないか?」 たじろいだように言うソラの言葉にシェリルは顔をしかめる。 「・・・こないだ補給路を断ったばかりだから敵の反撃があるとも限らないわ。こんな状況で此処を離れるなんて危険よ」 それなら、とばかりに近くにいたオルテガとマッシュが声をかけてくる。 「安心してくださいよ。あなた方が離れている間は俺達が此処をちゃんと守ってやるよ。どうせ言って帰ってざっと三日ってとこだ。そのくらい大丈夫さ」 「ずっと戦ってばかりだったんだろう?そんなんじゃ気がめいっちまうよ。ここらで一休みした方がいい」 「そうだとも!!」 といって最後に現れたのはガイア。 金髪碧眼に褐色の肌、筋肉隆々の彼は何となく暑苦しい。 「若い少年少女の君達が、このような戦場にずっといるというのは正直賛同できない。 ここはその羽を安めに温泉へと行こうではないか!! きっと楽しいぞ~♪ こんな戦いの中だ、楽しい思いも市内と息が詰まってしまうよ。辛いからこそ、楽しいひと時と言うのは必要だ。 苦境の中の楽しい時間はきっと忘れられないほろ甘い青春の一ページと成るに違いない!! さぁ! 行こう! あぁ、マッシュとオルテガは俺の代わりにテントで留守番な。 オレは彼らと一緒に温泉に入るから。彼とは一度、ゆっくりと話してみたかったんだ♪」 まったく、仕方のない人だ、止めたって無駄だろなどとぼやきつつもオルテガとマッシュは快諾する。 「じゃあ決まりだな!!」 ニカッ笑うガイア。 だが、強引にも程がある。 私返事していないんだけど?とシェリルは訝しげな目をする。 ――あんたが楽しみたいだけじゃ無いの? 「あ、あのツムグさんたちは?」 たじろぎつつちらりとソラの方を見る。 「ツムグたちも良いってさ」 そうか。私は最後なんだな? まぁ、連絡はどうせまだ3,4日はかかるだろうからいいか。と、シェリルは心の中で一人ごちるのであった。 そんなこんなで善は急げとばかりにソラから話を切り出された次の日にはもう温泉街へと出立していた。 雪深い森を抜けたどり着いた場所。そこは不思議な街だった。 現世の人間には分かった。 そこは、まるで日本の江戸時代頃の温泉街を模したかのような街だった。だがしかし、そこはまるで江戸時代の日本への偏見を具現化していた。 黒い瓦屋根、入り口に掛けられた暖簾。 それは良かった。 だが、何処と無くアーカイアの文化のうえに作られたその町は歪だった。 土足のままに屋敷に上がったり、障子なのに引き戸ではなく開き戸になっていたり、竹垣のように薪のような森から切り出した木を組み合わせたてかけていたり。 果ては招き猫と福狸がごちゃ混ぜになったかのような置物。まぁ縁起は良さそうだが、何か間違ってる。 ちらほらと日本語で書かれた文字も見受けられたが、彼らにとっては模様のようなものなのだろう。街の入り口に書かれた文字は「よこそう」になっていた。 恐らく昔に来た日本人の英雄たちが作り出して来たのだろう。それが、アーカイア人に受け継がれ次第に変化し、今のようなものになってしまったのだ。いつか誤解が解ける日は来るのだろうか? 「じゃあここに入ろう!」 先頭を歩いていたガイアがそう言ったのはある一軒の宿。 漢字で『男歓迎』と書かれている。 シェリルには分からなかったが、どうやらアーカイアにしては珍しくちゃんと男性英雄のための配慮もある宿のようだ。 ソラたちが宿の様子を見ている間に、ガイアが先行してさっさと宿を取ってしまう。 「部屋割りは――」とガイアはソラたちを見回し、「特に問題はなさそうだな。三部屋で頼むよ」 「かしこまりました。お二人部屋で宜しいですか?」 「あぁ、頼む」 3つの鍵を受け取り、すぐさま部屋に移動する。 ソラたちは手馴れた様子のガイアとその歌姫についていく。 「じゃあ荷物を置いて一息ついたら温泉に入りに迎えに行くから」 部屋の前につくとガイアは残りの二つの鍵をソラに手渡して唐突に言う。 「・・・・・・・・・・・・え? あの、3部屋って、僕とガイアさんで一部屋なんじゃ・・・?」 自分の手にある鍵は一瞬何なのだろうという感じて見た後、その意味が飲み込めたソラは驚いた。 これはもしかすると、先日の戦いなんかよりもよほど厳しい状況かもしれない。 「HAHAHA(´∀`)。何を言っているんだい、BOY? 温泉だよ? 英雄と歌姫のペアの部屋割りに決まっているだろう。 まさか男女別だとでも? そんな無粋な事、誰がするんだい?」 じゃ、俺はこれで、とばかりにガイアは自分の歌姫を連れて一室に入ってしまう。パタリと無常にもその扉はあっさりと閉まってしまう。 唖然とするソラ。この事態をどうしたものかと心の中でどっと汗をかいていた。 「それじゃあ入りましょうか」 横から伸びたシェリルの手がソラの手の上にあった二つの鍵をとる。そして、片方をアヤメに渡し、残りの鍵を持ってその鍵の対の扉へと向かう。 「え?」 一瞬何が起きたのかとソラは戸惑った。 「? 一緒の部屋なのでしょう? さっさと荷物を置きましょうよ」 そうねと、アヤメは何か言いたそうなツムグを引っ張って自分達の部屋に入る。 だが、それでもソラは依然硬直したままだ。 「え、あ、いや、あの・・・・・・・そ、そうだ!! ガイアさんにもう一度話してきてみるよ!!!」 「そう? じゃあ先に入っているわね」 廊下にはポツリとソラが一人取り残された。
by ama_no_iwato
| 2006-07-19 18:35
| 『追想曲をあなたに』
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