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「母強し」と打ち込んだら「歯は強し」と変換。まぁそりゃ強いよね。
夜の蝉の鳴き声の威力がだいぶ落ちてきたとはいえ、マダマダ昼間の日射は十分殺傷能力を秘めています。 そんなわけで昼間は気を抜くといつの間にか寝ています。(これ書いたのは24日。) 気温から受けるダメージ量=悪環境での睡眠による回復量 この公式が成り立つとき、私は止めど無く眠ります。 駄目学生でゴメン。 ◆第11話 2 『手』◆ 「あなた方が来るのを待っていたのです」 「僕達をですか?」 「えぇ、そうです」 「貴方に比べたら、僕達の方がよほど非力ではないのですか?」 「いいえ、そんな事はありません。あなた方には、世界を変える力があると、私は考えています」 「世界を変える力・・・・・?」 歌姫は微笑んだまま何も答えない。 「先ず、私が話す前に、あなた方の真の目的が何なのかをはっきりさせましょう」 「真の目的?」 そんなたいそうなものが僕達にあっただろうか? シェリルは母が言おうとしている事が、今まで自分の中にしこりとしてずっと疼いていたものだったのだと気付いた。 ――そして、言葉を噤んだ。 「そもそもあなた方がフォルミカの軍属となったのは何故ですか?」 「評議会が、信用できなくなったから・・・・・・?」 少し自信なさそうにツムグがソラに助けを求めるような視線を送りつつ言った。 「それは、何故?」 「評議会がやっていた事が許せなかった、というところかしら? アーカイアへと呼び出された英雄は自らが蟲となる事を知らず、元は人間であった者たちを殺すように仕向けてきたのですから。それに、200年前には蟲を一掃した英雄達を現世に帰すと嘘を吐いて、現世でもない何処かへと追いやってしまった。 そんな事をしているところで、自分達もその罪に加担するのは出来なかったからでしょう?」 「そうかな、アヤメ? それもあったけど、僕は自分が知ってしまった真実を、未だその事を知らずに戦っている人たちにも知らせなくてはならないと思って、彼女たちに従ったんだ。 だから、僕らは彼女たちと共に、暗蒼ノ歌姫の城へ行き、ハサンを、そして暗蒼の歌姫を・・・・・・殺し、世界に真実を広めた。そうじゃなかったかい?」 ツムグとアヤメが得心した顔をした。 そう、あの時、彼らを手に掛けたのは、確固たる信念があった。 世界があの真実を知らないでいるままでいてはいけない、と。 だからその信念を曲げない為に、障害となった彼らと戦った。それは必要な戦いであった。 今、僕達は何のために戦っていたのだろうか。 「では、その後も彼女らに従ったのは何故ですか?」 言葉が出なかった。 目的が同じだと思ったからついていった。 では、その目的とは何だったのだろう? 僕らの目的は、戦場を駆け巡るような事だったのだろうか? 僕らは彼女らの目的を全て把握していたのだろうか? 「・・・・・・私達は、蟲化を止めたくて、現世から来てしまった英雄達を現世へ戻したくて、『白銀の暁』に加わったんです」 力無く呟くようにシェリルが言った。 その言葉と共に、音が何処かへ零れ落ちて無くなってしまったかのように、誰も音を発しなかった。 『白銀の暁』はただの軍ではない。蟲化を阻止するための研究を行う施設も所有している。 そう、確かに、僕たちは蟲化を阻止したくて、軍属に下ったのではなかったか? それなのにどうだっただろう? 旗揚げのあの戦い以来、僕たちがしてきたのはただ戦場を駆け巡る事ばかりだった。 『僕らのような犠牲者を増やしてはいけない』そう思っていたのはほんの少し前のことの筈なのに。 僕はいつの間にその事を忘れてしまったのだろうか。 いつの間に、戦場に立っている事が普通になってしまったのだろう。 犠牲者など欲しくないと言いながら、僕は英雄達をこの手で何人も屠って来た。 犠牲者を生んだのは僕自身じゃないか。 握った拳に力が入った。 研究がどうなっているかなど、これっぽっちも僕は気にしてこなかった。シェリルが資料を求めたりしているのを見たけど、ただそれだけだった。 本当に研究に助力したいのであれば、戦場で戦うのではなく、僕たちは率先して研究に携わるべきだったのではないだろうか? 何故、人任せになどしてしまったのだろう? 自分が前線を守る事で、後方にいる研究者たちは安心して研究が出来たのだろうか? 自分はそれで満足していたのか? どうして自分で何もしてこなかったのだろう。 様々な事が悔やまれた。 だが、アヤメが昂然と言った。 「ですが、私達はフォルミカたちについていったことで、彼女らの指揮下に入ったのです。そして、戦場で戦うようにと言う命令をされた。ならば私達がする事はそれしかないではないですか。 軍属となったのに軍規に触れれば罰則は必死。 それに、前線を守る事でフェアマインの者達は戦渦に巻き込まれずに済んだのです。 私達の選択は間違っていたわけでは在りません。確かに本来の目的からはずれてしまっていたと思います。ですが、それが私達に出来たことなのです」 その言葉に歌姫の目に少し哀憐の色が浮かんだ。 「そうだったかもしれません。ですが、何故そのような状況となってしまったのでしょう?」 歌姫は言葉を切り、そっとティーカップを取り紅茶を少し口に含んだ。 「――今、世界中で混乱が起きています。」 不意に歌姫の声が降りた。 「評議会とフォルミカが争いあっています。 現世人も、アーカイア人も共に剣を取り、奏甲に乗り込み、互いに血を流して戦っています。 いったい誰がこのような状況を作り出したのでしょう? 評議会ですか? 『白銀の暁』ですか? 弱体化したとはいえ、まだ女神の触手の力は十分に残っています。ですから、女神の手に寄って今の状況が作り出されたとも考えられるでしょう。 もちろん、戦争と言う物は誰か一人がしたいと思えば出来るというようなものでは在りません。しかし、今の状態を欲している人間が必ずいます。その為に今も戦闘が続いているのです。 ここに、あなた方が知らないであろう事柄があります。 現在、アーカイアの東の方では、現世騎士団とハルフェアが争っています」 「現世騎士団と・・・・・・ハルフェアがですか?」 ソラは首をひねった。 まず、その二つが戦ったとして、まともな戦いになどならないと思ったからだ。 現世騎士団と名の聞こえはいいものの、所詮はごろつき集団。ろくな装備ではなかったはずだ。そんな彼らと、一国が争えば、どちらが勝つかなど明らかに思えた。 「現世騎士団には現在、強力な後ろ盾を得たようです。そのバックアップと評議会から離反した英雄を吸収した事で彼らは現在かなりの軍事力を持つ一団へとなっているのです」 「そんな事・・・・・・全然知らなかった」 ソラは少し衝撃を受けた。自分達が知らせた真実を受けて、その後の身の振り方の一つとして、現世騎士団への参加を選ぶ者達がいるという事に。それは少なくとも自分が望んだ結果ではなかった。 真実を知らせ、少しでも世界が良い方へと変わって欲しいと願ったが、どうだったのだろう。本当に良い方へと世界は向かっているのだろうか。 「まぁ、それは仕方が無いんじゃないの? 私達がいたのは前線だったし。情報が滞りがちなのは仕方ないわよ」 「そうかな・・・・・そうならいいんだけど」 「話を続けましょう。 現世騎士団は巨大化し、以前と同様、コーダ・ビャクライという男が指揮を取っていますが、騎士団が巨大化する少し前から、副官として新たに加わった男がいます。 彼の名はゼフィル。元白銀の歌姫直属の部下の一人だった男です」 「ゼフィルが・・・・・・・・・・? 現世騎士団に?」 ゼフィルといえば、フォルミカたちに出会った頃に共に戦ったことがある。 評議会の命令でルリルラの北にある村に向かう途中でフォルミカたちと出会ったのだ。 ゼフィルとはその後、村で出会い、戦いの後はあっさりと別れてしまっていた。 そういえば、気にも留めていなかったが、彼は別れる時に「次の任務がある」と言っていた。その任務とは一体なんだったのであろう。リプレイには書くことも忘れていた話。そういう会話はちゃんとあった。 嫌な汗が背を伝った。 「現世騎士団はゼフィルを通じ、フォルミカの援助を受け、巨大化したのです。もちろんフォルミカだけでなく、商人の国トロンメルや、大きな奏甲用工房を持つ赤銅の歌姫も関わっていたでしょう。 ですが、彼らの背後に控える影の一つに、フォルミカも加わっていた事は疑いようの無いことです。」 「そんな・・・・・・彼女は戦いを早く終わらせようと言っていたのに・・・・・・」 「なるほどね。ソラ、彼女はきっと確かに戦争を終わらそうとしたのよ。ただ、戦いが終わる時というのが『白銀の暁』が負けるというような事はあってはならなかったのよ。 評議会にたてついたのはヴァッサマインのみ。そんな状況から勝つためには如何に敵側の戦力を落とすか、よ。もしも現世騎士団がハルフェアと戦っていなければ、ハルフェアの軍もまた評議会軍と共にヴァッサマインを攻撃していたでしょうね。 もしもそうなっていたら、戦況は今とはがらりと違っていたと思うわ」 「そうです、アヤメ。彼女は自軍を勝利に導かねばならなかった。指導者として当然の選択といえることです。 ですが、その為に世界中に戦火を広げ、多くの血を流させる事になったのです。 彼女が私を用いて戦いを終わらせようと考えたのは、恐らく彼女もまた今の戦況が良くないと思っているからでしょう。 このままでは泥沼化し、アーカイアはぼろぼろになってしまう。 では、この状況をどうやって止めるのか? 単純な方法であり、もっとも困難な手段。禁じ手とも言われるべき手段があります。 それは、この世界から、幻糸を無くしてしまう事です」 一同は耳を疑った。 このアーカイアには幻糸が満ちている。その事が普通であり、普遍であると考えられている。 いつから、どうしてあるのかなどは全くの不明であるが、アーカイア人が生まれたときからこの世界には幻糸があり、共に生きてきた。 それをなくしてしまおうというのだ。 本当に、世界を根本から変えてしまおうということである。 「幻糸さえなければ、奏甲で戦いあう事も出来ない、歌術も使えない。そして、蟲化の原因である幻糸が無くなるわけですから、英雄達が蟲とならずに済むようになります。 今の戦争を止める方法でもあり、なおかつあなた方の本来の目的であった、英雄の蟲化の阻止まで行えるのです。」 「確かに良い方法に聞こえますが、それでアーカイアの民は良いのですか? ずっと幻糸と共に暮らしてきたのですから、幻糸が無くなってしまっても大丈夫なのでしょうか?」 「確かに多少の混乱は起きるでしょう。生まれもって来た半身を奪われるようなものです。 ですが、あなた方現世の方は幻糸など無くても生活しているのです。アーカイアの民も幻糸が無くても生きて行けるでしょう。 寧ろ今危惧すべきは、このまま戦火が収まらず、更なる犠牲者が増す事ではありませんか?」 「幻糸を失くす、そんな事が本当に出来るのですか?」 「その方法は、私が『黄金の歌姫』となった時、知りえました。『黄金の歌姫』になった事で、私は普通の人々が知りえない様々な事を知りました。 その一つが、幻糸と女神の関係です。これは一つの歌のようにして私の中に入ってきました。関係する部分だけお伝えすると、 『始めに幻糸あり 其は女神と共にあり恐らく、女神が『黄金の歌姫』からアーカイアのものに向けて何かを話す為のベースとなる知識の一つとして、この歌も与えられているのでしょうね。 『黄金の歌姫』となって一番役に立った事は知識量が増えた事ですね。意識は外へと追いやられ、体は不自由でしたから、色々と考える時間は十分でした。 現世人の遺伝子には感謝しなくては。 さて、先ほどの歌から分かる事は、幻糸があると言うことと女神がいると言う事が同一であるという事、そして、女神が万物を創造した場所はアーカイアではなくどこか別の次元であるという事の二つです。 幻糸があるのは女神がいるから。 つまり、幻糸をなくしたいのなら、その女神がいる場所へ行き、女神を滅すればよいのです」 その場にいた全員が冷や水を浴びせかけられたように凍りついた。 「女神さえいなくなれば、この世界の幻糸は無くなり、奏甲は動かなくなる。 そうすれば今のような奏甲同士の戦いなど無くなるでしょう。歌術もなくなってしまうでしょう。ですが、そうすれば戦う手段が無くなった彼らにそれ以上の戦闘を続ける余地はありません。 どうでしょう? あなた方で女神を倒して、世界を救っていただけませんか?」 えぇーと。。。。この回は九割五分創作になりました。もう殆ど小説です。二次小説に近いっすね。 現世騎士団の動きやゼフェルについては勝手に設定しちゃいました。その方が面白そうだったのでw どうだったでしょうか?
by ama_no_iwato
| 2006-08-30 01:01
| 『追想曲をあなたに』
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